声はどう出ているのか:話し声の科学を徹底解説
執筆者: Michael Tournaud
言葉を思いついてから声に出すまでの0.5秒に、何が起きているのか
声は、3つのシステムが順番に働くことで生まれます。まず肺が空気を押し出し、その空気がのどにある2枚の小さな組織のひだを振動させ、その振動が口と鼻を通り抜ける間に作り変えられます。この一連の流れにかかる時間は、およそ50ミリ秒です。
ただ、調べ始めて驚いたことがあります。声帯は、英語で vocal cords(声のひも)と呼ばれるものの、ひも状のものではまったくありません。5つの層からなる組織のひだで、層ごとに固有の役割があります。しかもそこで働く物理は、機械技術者がうらやむほど精巧です。1秒間に100回以上振動する組織を、意識したこともない筋肉が制御しているのです。
私は何か月もかけて研究論文を読み、ボイスコーチに話を聞き、自分の声で実験を重ねてきました。そこでわかったことは、話すという行為への見方を根本から変えてくれました。自分の声がなぜ今の響きなのか、そしてそれを変えられるのかを知りたいなら、まずは声を作り出す仕組みを理解する必要があります。
声を作る3つのシステム
発声はひとつの働きではありません。まったく別の役割を担う3つのシステムが連携して成り立っています。The Voice Foundationは、次のように整理しています。
システム1:動力源(呼吸)
すべては空気から始まります。肺、横隔膜、胸郭、胸まわりの筋肉が、音声科学でいう「呼吸器系」つまりブレスサポートを構成します。これは発電機のような存在だと考えてください。
話すために息を吐くとき、ただ空気を押し出しているわけではありません。声帯を動かすための、制御された安定した圧力の流れを作っています。大事なのは「制御された」という点です。大きな声を出すことは、強く押し出すことではなく、空気の流れの扱い方を変えることなのです。
ミシシッピ大学メディカルセンターによる音声障害の解説によると、胸ではなくお腹を使う腹式呼吸は、負担が少ないまま力のある声を生み出します。肺の後ろ側と下側を使うことでより多くの空気を取り込め、その分、声帯を通る空気の流れがなめらかになるからです。
横隔膜がこわばると、声は息漏れしたり、震えたり、むらのある響きになったりします。呼吸が浅い、胸に違和感がある、いつもより声が弱い、といったサインが出ます。
システム2:振動源(喉頭)
音そのものが作られるのがここです。喉頭(いわゆるボイスボックス)はのどの中にあり、声帯ひだを収めています(英語では vocal cords とも呼ばれますが、実際にはひも状ではないため、この呼び方は使われなくなりつつあります)。
喉頭は驚くほど複雑な構造をしています。NCBI Bookshelf に収載された StatPearlsによれば、軟骨の骨組み(甲状軟骨、輪状軟骨、披裂軟骨)、内喉頭筋、外喉頭筋、神経、そして粘膜の内張りから成り立っています。
ふだん呼吸しているとき、声帯ひだは開いたままで空気を通します。話そうとすると、ひだはほぼ完全に閉じ、吐く息がそのわずかなすき間を押し通ります。これが振動を生みます。
直感に反するのはここからです。声帯ひだは、ギターの弦のようにはじかれて鳴るわけではありません。動かしているのは空気の力です。狭いすき間を空気が勢いよく通ると吸い寄せる作用(ベルヌーイ効果)が生まれ、ひだが再び引き寄せられて閉じます。すると圧力がまた高まってひだを押し開き、この繰り返しが続きます。しかもその速さは、想像を超えるものです。
システム3:音を形づくる場所(声道)
声帯ひだが作る元の音は、ただのブザーのような響きです。あなたの声とは似ても似つきません。そのブーという音は、声道――のど、口、鼻腔、副鼻腔――を通る間に姿を変えます。
Toronto Speech Therapy によれば、これらの空間は共鳴室として働きます。音波が通り抜ける際、ある周波数は増幅され、別の周波数は減衰します。このフィルターの働きこそが、その人ならではの声の個性を作ります。
そのうえで舌、軟口蓋、唇が、共鳴した音を聞き分けられる言葉へと形づくります。こうしてシステム全体が連携し、単純なブザー音が人間の複雑な話し声へと変わります。
声帯ひだは実際に何でできているのか
ここからが面白いところです。声帯ひだは、単純な組織の膜ではありません。StatPearlsによると、5つの異なる層があり、それぞれ組成も役割も違います。
第1層:上皮(いちばん外側の膜)
いちばん外側は扁平上皮という薄い覆いで、要するに皮膚のようなものです。声帯ひだの中央部で厚さは約0.05mm。この層がひだの形を保ち、内側の組織を守り、水分の調整を助けます。
上皮細胞の表面には、マイクロリッジ(微細な隆起)や微絨毛と呼ばれる微小な構造があります。その役割は何かというと、粘液の膜を広げて保つことです。声帯ひだがなめらかに振動するには適切な潤いが欠かせません。潤いが足りないと摩擦が増え、炎症を起こします。
第2〜4層:粘膜固有層(揺れを生む部分)
上皮のすぐ下にあるのが粘膜固有層で、ここはさらに3つの層に分かれています。
浅層(ラインケ腔):音声研究者はこの層の感触を「やわらかいゼリー」にたとえます。ゆるくしなやかで、水分量を調整するヒアルロン酸などを豊富に含みます。この層がクッションとなり、ひだが自由に振動できるようにしています。粘膜固有層の厚さの約13%を占めます。
中間層:こちらは「やわらかい輪ゴムの束」のような感触です。伸びては元に戻る弾性線維が大半を占めます。粘膜固有層の約51%を占め、3つのなかで最も厚い層です。
深層:「木綿糸の束」にたとえられる層で、耐久性をもたらす膠原線維を含みます。ひだが伸びすぎて形が崩れるのを防ぐ役割です。中間層と深層が合わさったものが、声帯靭帯と呼ばれます。
第5層:声帯筋(エンジン)
いちばん下にあるのが骨格筋、すなわち甲状披裂筋(声帯筋)です。これが声帯ひだの本体であり、厚みの大部分を作っています。
最近まで知らなかったことがあります。学術誌 Hormones に掲載された研究によれば、乳児の粘膜固有層は1層しかありません。生まれた時点では声帯靭帯が存在しないのです。4歳ごろから現れはじめ、6〜12歳の間に3つの層がはっきり発達し、思春期の終わりまでに完成します。子ども時代を通じて、声は文字どおりまだ作られている途中なのです。
声帯ひだは実際どれくらい速く振動するのか
想像より速いです。The Voice Foundation によると、発声中の声帯ひだは1秒間に100回を超えて振動し、多くの場合それよりずっと速く動きます。
2,472人を対象にした集団調査では、具体的な数値が示されています。
- 男性の声帯ひだは90〜500 Hzで振動し、ふつうの会話では平均およそ115 Hz
- 女性の声帯ひだは150〜1000 Hzで振動し、会話では平均およそ200 Hz
小さめの声で話すときの平均周波数は、男性が111.8 Hz、女性が161.3 Hzでした。大きめの声では、男性が175.5 Hz、女性が246.2 Hzまで上がりました。
この振動の速さを決めているのは何でしょうか。主な要因は2つ、声帯ひだの張力と質量です。ひだを薄く強く引き伸ばすと振動は速くなり、声は高くなります。ひだが厚くなってゆるむと振動は遅くなり、声は低くなります。喉頭の筋肉は、話している間ずっとこの調整を続けています。
なぜ声は一人ひとり違うのか
理由のひとつは体の作りです。成人男性の声帯ひだの長さは17mm〜25mm、女性は12.5mm〜17.5mmです。長く厚いひだほど振動が遅く、声は低くなります。
ただ、それは入り口にすぎません。のど、口、鼻腔の形と大きさ、つまり声道は、その人だけの音響的な指紋のように働きます。音がこれらの空間を通ると、ある周波数は増幅され(これをフォルマントと呼びます)、別の周波数は減衰します。
共鳴に関する研究によれば、咽頭(鼻の奥から喉頭までをつなぐ筋肉の管)は、その位置、大きさ、形を変えられる自由度から、最も重要な共鳴器です。次いで重要なのが口腔で、その形は舌、あごの開き、唇によって決まります。
これらの構造のわずかな違いでも、声質にははっきりした差が生まれます。一卵性双生児は遺伝子がほぼ同じでも声を聞き分けられるのは、そのためです。
声が裏返るのはなぜか、どうすれば防げるのか
声の裏返りは、声帯ひだを動かす筋肉のコントロールが一瞬乱れることで起こります。Biology Insights によると、ひだが意図した連係を超えて急に伸びたり、縮んだり、締まったりしたときに生じます。振動のパターンが急に変わることで、声の高さが突然跳ね上がったり、一時的に声が出なくなったりします。
思春期という要因
テストステロンの働きで喉頭は大きくなり、声帯ひだは長く厚く育ちます。研究によれば、思春期に男性の声の高さは約1オクターブ下がります。男子の声変わりはふつう12〜13歳で始まり、15〜18歳の間に落ち着きます。
問題は何かというと、脳と発声にかかわる筋肉が、この新しい寸法に慣れるまで時間がかかることです。子どもの声を操っていた神経回路を、まったく別の楽器に合わせて調整し直さなければなりません。それが済むまでは、声の高さが不安定になりがちです。
女性の思春期の変化はこれほど劇的ではなく、声の高さが下がるのは3〜4半音ほどです。ただし息漏れが増える、ときどき声が裏返る、歌うときに音程が取りにくくなる、といった変化は起こり得ます。
そのほかのよくある原因
水分不足:声帯ひだがなめらかに振動するには潤いが必要です。乾くと動きが不規則になります。歌手が水分補給にこだわるのは、このためです。
心の状態:緊張、不安、気まずさは、のどの筋肉をこわばらせます。すると声帯ひだの動きが制限され、思いがけない高さの変化が起きやすくなります。
声の疲労:長時間しゃべったり歌ったりすると、ひだを操る小さな筋肉が疲れ切り、一時的にコントロールを失います。
予防のための工夫
Healthline がまとめた内容をもとにすると、次のとおりです。
- 1日に少なくとも64オンス(約1.9リットル)の水を飲む。冷たい水は喉頭の筋肉の動きを妨げることがあるため、話す前は常温のほうが適しています。
- 長時間話したり歌ったりする前に、発声練習で声をウォームアップする。
- 大声を出すことも、ささやきすぎることも避ける。どちらも声帯に負担をかけます。
- 声の高さや音量を急に変えない。少しずつ変化させる。
- 深呼吸などのリラックス法でストレスを管理する。
- たくさん声を使ったあとは、十分に声を休ませる。
ホルモンは生涯を通じて声をどう変えるのか
声は一生同じではありません。ホルモンが生涯にわたって声を作り変えていきます。
テストステロンの役割
学術誌 Hormones に掲載された研究によると、生後20年間で声帯ひだは男性で年におよそ0.7mm、女性で年におよそ0.4mm伸びます。その結果、成人でのおおよその最大長は男性で16mm、女性で10mmになります。
思春期の男性のテストステロン値は、同年代の女性の20〜30倍にもなります。これにより喉頭の筋肉と靭帯が厚みを増し、さらに喉頭が二次的に下がります。声道が長くなる、男性特有の変化です。
加齢とともに変わる声
意外なことに、加齢による声の変化は男女で逆向きに進みます。
65歳を超える男性では、30歳以降テストステロンが年に約1%ずつ減り続けています。その影響で筋肉が痩せ、声帯筋も例外ではありません。結果として声帯ひだが弓なりにたわみ、声門の閉じが弱くなり、息漏れが増え、声は高くなります。男性の声は年齢とともに、むしろ女性的な響きに近づいていくのです。
女性はその逆です。閉経後のホルモン変化によって、話し声の高さが下がることがよくあります。
そのため、若い世代では男性のほうが女性より低い声ですが、高齢になるほど男女の声の差は小さくなります。
声は他人からの見られ方をどう左右するのか
ここは音声科学と心理学が交わる領域で、研究結果はなかなか衝撃的です。
低い声と説得力
Frontiers in Psychology 誌の系統的レビューによると、声の音響的な特徴は「信頼できそうか」という印象を確かに左右します。ただし同時に、声の高さだけでは予測材料として当てにならず、ほかの音響的・状況的な要因と組み合わさって初めて意味を持つこともわかりました。進化の過程で私たちの祖先は、低い周波数の声を体の大きさや優位性と結びつけていたと考えられます。
リーダーの立場には、話し手の性別を問わず低い声が好まれるという偏りがあります。生物学的には、低い声はテストステロン値の高さを示すサインであり、それが優位性や自信の印象と結びつきます。
ただし話は単純ではない
面白いのはここからです。お金にまつわる信頼を調べた研究では、誰にお金を任せるかを決める場面では、人はむしろ高い声を好むことがわかりました。低い声が力強さを伝える一方で、高い声は温かさや協調性を感じさせます。見返りのやり取りを考える場面では、そうした資質のほうが重視されるのです。
プロは無意識に声を調整している
ある研究では、大学教員は専門知識を要する質問に答えるとき、より低く響きのある声で話していました。無意識のうちに、信頼できる存在としての印象を作っていたわけです。また、気軽な道案内に比べてキャリアの助言をする場面では、女性のほうが男性より大きく声を低くしていました。
程度の差はあれ、誰もが同じことをしています。声は固定されたものではなく、状況に応じて、たいていは自覚のないまま自然に調整されているのです。
声はトレーニングで本当に変えられるのか
変えられます。ただし条件つきです。
ボイストレーニング研究のスコーピングレビューによると、健康な人にとって最も効果的だったのは半閉鎖声道エクササイズ(SOVTE)、なかでもストローを使った発声でした。音響的な測定値と、本人が評価する声の質のどちらにも良い効果が確認されています。
ただしこのレビューでは、最適な練習時間は男性で5〜7分、女性で3〜5分とされています。これを超えて続けると、かえって声質に悪影響が出て、のどの不快感が増しました。
音楽を学ぶ学生を対象にした研究では、23人を18か月のトレーニング期間にわたって追跡しました。その結果、音声障害重症度指数(DSI)の有意な改善と音域の広がりが確認されています。ボイストレーニングは効きます。ただし時間と正しいやり方が必要です。
教師を対象にした長期研究では、トレーニングを受けた人はプログラム修了から2年近く経っても良好な声の健康を保っていた一方、受けていない比較群では声の状態が低下していました。
押さえておきたいポイント
- 声は3つの部分からなるシステム:呼吸が力を生み、声帯ひだが振動を作り、声道が最終的な音を形づくります。
- 声帯ひだは5層構造:層ごとに力学的な性質が異なり、いずれも子ども時代から思春期にかけて発達します。
- ホルモンは生涯にわたって声を作り変える:男性の声は思春期に大きく低くなり、高齢になると再び高くなります。女性はその逆をたどります。
- 声の裏返りは、体の変化に神経の制御が追いつかないときに起きる:水分補給、ウォームアップ、無理をしないことで防げます。
- 声の響きは他人の印象を左右する:低い声は説得力を伝え、温かみのある声は信頼を築きます。状況次第です。
- ボイストレーニングは確かに効く:ただし正しいやり方が大切で、やればやるほど良いわけではありません。
声を生み出す仕組みを理解することが、声をうまく使いこなす第一歩です。もっと自信のある響きにしたい、声の疲れを防ぎたい、あるいは自分の最も強力なコミュニケーション手段への好奇心を満たしたい――どんな理由であれ、科学が示す答えははっきりしています。あなたの声は、おそらく思っている以上に鍛えられます。
Deepr のようなアプリを使えば、声の指標が時間とともにどう変わるかを記録できます。練習を重ねながら、声の低さ、明瞭さ、自信の度合いを測れます。ただ、本当に力になるのは、自分が何を鍛えているのかを理解したときです。